前回の記事では、不妊治療と仕事を両立させるために「国の制度や会社のサポートを限界まで使い倒す方法」を解説しました。

しかし、どれだけ制度を駆使してスケジュールを調整しても、連日の通院、急な採卵日の決定、そしてホルモン剤による体調不良やメンタルの限界などから、「やっぱり、一度仕事を休職して治療に専念したい」と考える瞬間は訪れます。
ここで、計画的に先を見通したい私たちが直面する最大の壁が「お金の不安」です。
- 「休職したら、毎月の収入はゼロになってしまうの?」
- 「不妊治療費が不足しないか怖くて、休む決断ができない」
結論から言うと、ただの「会社の無給の不妊治療休職」を選ぶと収入が途絶えてしまいますが、もし心身の不調によって医師から休職の診断が出た場合、公的保険の「傷病手当金」を活用することで、休職中も一定の収入を確保できる可能性があります。
今回は、一人の不妊治療経験者の目線から、休職する際のお金の減り方や、損をしないためのチェックポイントを整理しました。
※実際の支給要件や金額は、ご自身が加入している健康保険組合や会社の就業規則によって異なりますので、必ずご自身の担当窓口へご確認ください。
罠にハマるな!会社の「不妊治療休職制度」は原則無給
国も両立支援を進めているため、近年では福利厚生として「不妊治療休業制度」を導入する企業が増えています。一見、素晴らしい制度に思えますが、ここに大きな罠があります。
多くの会社において、独自の不妊治療休職は「無給(ノーワーク・ノーペイの原則)」であることがほとんどです。
つまり、会社の制度を使ってそのまま休職すると、以下の状態になります。
- 毎月の基本給: 0円
- 社会保険料(健康保険・厚生年金): 免除されず、収入がゼロでも毎月支払う必要がある
これでは、ただでさえ高額な不妊治療費がかかる時期に、貯蓄を急激に切り崩すことになり、精神的な防衛ラインが崩壊してしまいます。
そこで、もし治療に伴う心身の不調(重度のホルモン剤の副作用やメンタルの限界など)がある場合、選択肢として視野に入ってくるのが、公的医療保険の制度である「傷病手当金」です。
不妊治療の不調で「傷病手当金」はもらえる?一般的な4つの要件
「傷病手当金って、ケガやうつ病じゃないともらえないのでは?」と思うかもしれませんが、不妊治療そのものは病気ではなくても、それに伴う深刻な体調不良やメンタルの不調で「医師が就労不能と判断した」場合は、支給対象になるケースがあります。
- 業務外の事由による病気やケガの療養のための休業であること(治療のストレスによる適応障害、重度のOHSSなど)
- 仕事に就くことができないこと(労務不能という医師の判断・診断書が必要)
- 連続して4日以上休んでいること
- 休職期間中に給与の支払いがないこと
※参考:協会けんぽHP「傷病手当金」
💡ロジカルポイント
単に「通院で忙しいので休みます」という理由では傷病手当金は出ません。あくまで「不妊治療に伴う心身の不調により、現在の業務が不可能なため療養を要する」という“医師の客観的な意見(診断)が必要不可欠”です。まずは主治医やメンタルクリニックの医師に、現状の辛さをロジカルに相談してみるのが最初のステップになります。
【シミュレーション】休職中の手取りはいくらになる?
では、実際に傷病手当金をもらって休職した場合、いくらお金が手元に残るのか、具体的な数字で試算してみましょう。
一般的な「協会けんぽ」などの場合、傷病手当金の支給額は、ざっくり「額面給与の約3分の2(約67%)」が目安となります。
ここで注意したいのが、産休・育休とは異なり、傷病手当金をもらって休職している期間も、健康保険料や厚生年金などの「社会保険料」の支払いは免除されない(原則、自己負担のまま)という点です。
これを踏まえて、リアルな手残り額を試算してみます。
【試算条件】月給(標準報酬月額)が30万円の女性の場合
- 働いている時の手取り: 約24万円(税金や社会保険料が引かれた後)
- 休職中の傷病手当金(月額): 約20万円(30万円 × 2/3)
- ここから引かれる社会保険料・住民税など: 約6万円〜(※会社から請求されるか、後日自分で払います)
- 休職中の実質的な手残り: 約14万円前後
働いている時に比べて月々約10万円ほどのマイナスになる計算です。
「やっぱりそれなりに減るな……」と感じるかもしれません。しかし、傷病手当金という「毎月約24万円のベース収入」があるおかげで、貯蓄の切り崩しスピードを大幅に遅らせることができます。
💡あなたの健康保険組合は「もっと手厚い」かも?
実は、傷病手当金のルールや金額は、自分がどこの健康保険組合に加入しているかによってさらに有利になる場合があります。
大企業の健康保険組合や一部の共済組合などでは、独自の福利厚生として「傷病手当金付加金」という上乗せ給付が存在することがあります。組合によっては、通常の3分の2にプラスして、「給与の最大80%〜85%」までカバーしてくれる手厚いケースも。
まずはマイナポータル、資格情報のお知らせ、もしくは資格確認書に書かれている「保険者名(〇〇健康保険組合など)」を確認し、その組合のホームページなどで傷病手当金のページをチェックしてみてください。
損をしないための休職スケジュール「3つのステップ」
この制度を視野に入れて動く場合、感情的に動いてはいけません。以下のステップでロジカルに進めましょう。
- ステップ1:自分の「健康保険組合」の独自の付加給付を調べる 自分が加入している健康保険のウェブサイトで、傷病手当金の上乗せ(付加金)があるか、申請の流れはどうなっているかを確認します。
- ステップ2:医師への相談と現状の共有 クリニックの主治医、または心身のストレスが強い場合は心療内科を受診し、「現在の体調では仕事を続けるのが難しいこと」を相談し、医師の判断を仰ぎます。
- ステップ3:我が家の「防衛ライン」と照らし合わせる 傷病手当金(給与の3分の2+α)から、休職中もかかる社会保険料や固定費を差し引き、毎月いくら貯蓄から補填することになるかを計算します。
※過去の記事で防衛ラインの計算方法についても解説しています。

まとめ:休職は「負け」ではなく、ゴールへ向かうための「ロジカルな投資」
「仕事を休むなんて、周りに迷惑がかかるし、キャリアに傷がつくかもしれない」
そうやって真面目すぎるがゆえに一人で抱え込み、心身を壊してしまっては、妊活どころか今後のライフプランが狂ってしまいます。
傷病手当金の仕組みを正しく理解し、自分の加入している保険組合のルールを調べれば、「自分が負うべきリアルなコスト」が明確になります。
お金の減り方を数字で可視化できれば、不安は大幅に減ります。まずは一度、ご自身の健康保険組合の制度を調べてみてください。
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